【脳の機能の左右差】
— 神経科学 × 動作 × 姿勢から理解する身体の非対称性 —
人の身体は左右対称に見えるが、実際には脳の機能は左右で明確に異なる。
この「脳の左右差」は、
姿勢・呼吸・歩行・筋出力・可動性・不定愁訴
などに影響を与えるため、運動指導者にとって理解必須のテーマである。
本稿では、脳の機能的左右差を、運動に応用できるレベルで整理する。
① 脳の左右差はなぜ生まれるのか?
脳は構造としては左右対称に見えるが、
情報処理の得意分野が左右で異なる。
これはヒトの進化過程で、
効率的な情報処理を行うため
脳が「専門領域」を分担した結果とされる。
② 大脳皮質の左右差
● 左脳の特徴
言語(ブローカ野・ウェルニッケ野)
論理的思考・順序処理
精密運動の制御
“詳細・一点集中” の情報処理
身体では右半身の運動を主に支配
左脳優位の人の特徴(身体面)
筋力発揮は精密だが持久性は低め
動作が小さくなりやすい
姿勢は前方固定(固めやすい)
呼吸は浅く、胸式に偏る傾向
● 右脳の特徴
空間認知(距離・方向・広い視野)
姿勢バランス・全身協調
感情処理(表現・察知)
“全体像・大局”を見る処理
身体では左半身の運動を主に支配
右脳優位の人の特徴(身体面)
全身が協調しやすいが精密性に欠ける
重心が左右どちらかに偏りやすい
呼吸は大きいが、下位肋骨の動きは弱い場合も
動作のブレが出やすい
③ 大脳皮質以外の“左右差”の存在
脳幹・小脳・辺縁系にも左右差は存在する。
● 小脳の左右差
小脳は「運動の誤差修正」の中心であり左右の機能差がある。
右小脳:左半身の精密運動、手の巧緻性
左小脳:右半身の姿勢制御、全身協調性
小脳の偏りがあると:
一側の股関節が詰まりやすい
片側で踏ん張りやすい/抜ける
ランジ・スクワットで左右差が出る
● 大脳基底核(左右差)
左:動作の開始・停止(Go/No-Go)
右:姿勢反射、バランス自動調整
偏りがあると:
左優位 → 動作がぎこちない、速い変換が苦手
右優位 → 姿勢は安定しているが細かいコントロールが苦手
● 辺縁系(情動)の左右差
右:ストレス反応・不安系
左:ポジティブな情動
情動の偏りは姿勢・筋緊張へ即影響する。
右脳ストレス過多の人 → 肩甲挙筋・僧帽筋上部が過緊張しやすい。
④ 呼吸と骨格の左右差との結びつき
多くの研究で示されているが、
ヒトの体は「機能的左右差」を持つ。
代表例:
● 横隔膜の左右差
右の方がドームが高く、筋量も多い
肝臓が下にあるため、右は強く押し上げられる
→ 右横隔膜が強く、右重心になりやすい
● 肋骨の左右差
右は後方に回旋しやすく、左は前方に回旋しやすい
→ 体幹の回旋方向にも癖が出る
● 骨盤の左右差(PRIも指摘)
右骨盤は前傾しやすい
左骨盤は後傾しやすい
→ 歩行やスクワットで左右差が生じる
⑤ 運動・姿勢における“左右差の影響”
● 1. 重心が右に寄りやすい
理由:右横隔膜が強く、右肋骨が下がりやすい。
結果:
右股関節が詰まりやすい
右膝が内側に入りやすい
右肩が下がる
腰椎が右凸になりやすい
● 2. 左側は「ストレッチされ続けた身体」
左肋骨は外開き
左骨盤は後傾しやすい
→ 左側で力が入りにくい(特に殿筋群)
● 3. 歩行にも深い影響
右立脚が安定→歩行は“右優位”で組み立てられる
左立脚は遊脚の準備で忙しく、求心性が弱い
→
左股関節の外旋・外転が弱くなる
右の内旋・内転が強くなる
これが膝や股関節の不調にも直結する。
⑥ トレーニングではどう活かすか?
「左右差=悪」ではない。
しかし、特定の側に偏りすぎると痛みや可動性低下につながる。
● 左右差改善の基本原則
① 左側の求心性を高める(力が入りやすくする)
左グルートアクティベーション
左股関節内転筋・外旋筋の強化
左腹斜筋の求心性トレーニング
② 右側の過活動を緩める
右腹斜筋・右腰方形筋のトーンダウン
右横隔膜のリブモビリティ
③ 呼吸を使う(左右差の根本改善)
右噴門下部の緊張を抑え、胸郭を左右対称に近づける
左右に空気を入れ分ける呼吸ドリル
(左ポジショニング・90/90呼吸など)
④ 動作に統合する
左片脚立位
左への重心移動練習
歩行ドリル(左立脚期の安定化)
⑦ まとめ:脳の左右差は“動きの癖”を決める
・左脳は精密・論理、右脳は空間・姿勢
・横隔膜や肋骨、骨盤は左右差を持つ
・呼吸や歩行パターンも左右非対称
・トレーニングは「左の求心性 × 右の抑制」が鍵
・左右差は悪ではなく、理解してコントロールするもの
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