2025年11月更新:脳の機能の左右差


【脳の機能の左右差】


— 神経科学 × 動作 × 姿勢から理解する身体の非対称性 —


人の身体は左右対称に見えるが、実際には脳の機能は左右で明確に異なる。
この「脳の左右差」は、
姿勢・呼吸・歩行・筋出力・可動性・不定愁訴
などに影響を与えるため、運動指導者にとって理解必須のテーマである。


本稿では、脳の機能的左右差を、運動に応用できるレベルで整理する。







① 脳の左右差はなぜ生まれるのか?


脳は構造としては左右対称に見えるが、
情報処理の得意分野が左右で異なる


これはヒトの進化過程で、
効率的な情報処理を行うため
脳が「専門領域」を分担した結果とされる。







② 大脳皮質の左右差


● 左脳の特徴




  • 言語(ブローカ野・ウェルニッケ野)




  • 論理的思考・順序処理




  • 精密運動の制御




  • “詳細・一点集中” の情報処理




  • 身体では右半身の運動を主に支配




左脳優位の人の特徴(身体面)





  • 筋力発揮は精密だが持久性は低め




  • 動作が小さくなりやすい




  • 姿勢は前方固定(固めやすい)




  • 呼吸は浅く、胸式に偏る傾向








● 右脳の特徴




  • 空間認知(距離・方向・広い視野)




  • 姿勢バランス・全身協調




  • 感情処理(表現・察知)




  • “全体像・大局”を見る処理




  • 身体では左半身の運動を主に支配




右脳優位の人の特徴(身体面)





  • 全身が協調しやすいが精密性に欠ける




  • 重心が左右どちらかに偏りやすい




  • 呼吸は大きいが、下位肋骨の動きは弱い場合も




  • 動作のブレが出やすい








③ 大脳皮質以外の“左右差”の存在


脳幹・小脳・辺縁系にも左右差は存在する。







● 小脳の左右差


小脳は「運動の誤差修正」の中心であり左右の機能差がある。





  • 右小脳:左半身の精密運動、手の巧緻性




  • 左小脳:右半身の姿勢制御、全身協調性




小脳の偏りがあると:





  • 一側の股関節が詰まりやすい




  • 片側で踏ん張りやすい/抜ける




  • ランジ・スクワットで左右差が出る








● 大脳基底核(左右差)




  • 左:動作の開始・停止(Go/No-Go)




  • 右:姿勢反射、バランス自動調整




偏りがあると:





  • 左優位 → 動作がぎこちない、速い変換が苦手




  • 右優位 → 姿勢は安定しているが細かいコントロールが苦手








● 辺縁系(情動)の左右差




  • 右:ストレス反応・不安系




  • 左:ポジティブな情動




情動の偏りは姿勢・筋緊張へ即影響する。
右脳ストレス過多の人 → 肩甲挙筋・僧帽筋上部が過緊張しやすい。







④ 呼吸と骨格の左右差との結びつき


多くの研究で示されているが、
ヒトの体は「機能的左右差」を持つ。


代表例:



● 横隔膜の左右差




  • 右の方がドームが高く、筋量も多い




  • 肝臓が下にあるため、右は強く押し上げられる
    右横隔膜が強く、右重心になりやすい




● 肋骨の左右差




  • 右は後方に回旋しやすく、左は前方に回旋しやすい
    → 体幹の回旋方向にも癖が出る




● 骨盤の左右差(PRIも指摘)




  • 右骨盤は前傾しやすい




  • 左骨盤は後傾しやすい
    → 歩行やスクワットで左右差が生じる








⑤ 運動・姿勢における“左右差の影響”


● 1. 重心が右に寄りやすい


理由:右横隔膜が強く、右肋骨が下がりやすい。
結果:





  • 右股関節が詰まりやすい




  • 右膝が内側に入りやすい




  • 右肩が下がる




  • 腰椎が右凸になりやすい




● 2. 左側は「ストレッチされ続けた身体」




  • 左肋骨は外開き




  • 左骨盤は後傾しやすい
    → 左側で力が入りにくい(特に殿筋群)








● 3. 歩行にも深い影響




  • 右立脚が安定→歩行は“右優位”で組み立てられる




  • 左立脚は遊脚の準備で忙しく、求心性が弱い




  • 左股関節の外旋・外転が弱くなる




  • 右の内旋・内転が強くなる




これが膝や股関節の不調にも直結する。







⑥ トレーニングではどう活かすか?


「左右差=悪」ではない。
しかし、特定の側に偏りすぎると痛みや可動性低下につながる。







● 左右差改善の基本原則


① 左側の求心性を高める(力が入りやすくする)




  • 左グルートアクティベーション




  • 左股関節内転筋・外旋筋の強化




  • 左腹斜筋の求心性トレーニング




② 右側の過活動を緩める




  • 右腹斜筋・右腰方形筋のトーンダウン




  • 右横隔膜のリブモビリティ




③ 呼吸を使う(左右差の根本改善)




  • 右噴門下部の緊張を抑え、胸郭を左右対称に近づける




  • 左右に空気を入れ分ける呼吸ドリル
    (左ポジショニング・90/90呼吸など)




④ 動作に統合する




  • 左片脚立位




  • 左への重心移動練習




  • 歩行ドリル(左立脚期の安定化)








⑦ まとめ:脳の左右差は“動きの癖”を決める


・左脳は精密・論理、右脳は空間・姿勢
・横隔膜や肋骨、骨盤は左右差を持つ
・呼吸や歩行パターンも左右非対称
・トレーニングは「左の求心性 × 右の抑制」が鍵
・左右差は悪ではなく、理解してコントロールするもの


 

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